住宅のリノベーションである。敷地は大仏坂の切通しに近く、鎌倉特有の谷戸地形に位置する。はじめに地盤沈下し建物が歪んでいた南側をごっそり減築し、暗かった北側に光を届けた。それでもまだ面積超過していたため、東西の下屋部分を取り除き、擁壁や隣地との隙間を大きくして敷地全体に風の通り道をつくった。残った北側建物は軸組をジャッキアップして基礎を一部つくり直し、柱梁は適宜入れ替え、構造の健全化を図った。最後に古くなった設備機器を更新し、建主の希望である白い内外装の改装を行った。こうして高齢の夫婦が残りの人生を住まうのに十分な機能をもった小さな住宅ができたわけだが、問題はここからである。現行の法規上では永遠にリノベーションされ続けることでしかあり続けることができないこの住宅は、再びリノベーションされる時がくる。増改築を繰り返した既存の住宅は、都度必要なパーツを追加、更新した無機的で閉じた状態であり、それを踏襲していてはこれまで通りの延命治療的修繕で終わってしまう。そうではなく、今回のリノベーションによって有機的で動的な建築のあり方に刷新し、古びた住宅が建ち並ぶ周辺もひっくるめて、風景をごっそり変えてしまうような大胆な手立てを行う必要があるように思えた。そこで、北側で完結した住宅をひとつの「家」と捉え、減築で空いた南側にテラスとなる「庭」をリビングの床レベルとほぼ同じ高さに設けた。そして「家」と「庭」とを繋ぐ線を西側に引き膨らませた半月型の「代」を新しい建築として加えてみた。「代」は確認申請不要の10m2以下の増築で、屋根を矩勾配でカットすることで平面と断面に同じ曲率のカタチが現れ、平面は最大でも幅1.2mしかなく、特定の機能を持たない。そんな「代」を「家」と「庭」を繋ぐ新たな補助線として添えてみると、円弧のフレームはするりと滑らかに双方を繋ぎながら滞りのない流れをつくり出し、窓から外さらには周辺にまで続いていく開かれた建築に一変した。各要素の関係性を揺るがす補助線としての「代」を添えることにより、この住宅は動的な建築に生まれ変わり、寂れた隣家、カビで黒ずんだ擁壁など、すべての風景を肯定できる環境となった。そしてこの「代」によるフレーミングは、周辺関係をも含めた未来のリノベーションに多彩なランゲージを提供するはずだ。明るい建築としてこの場所にあり続け、次の居住者や設計者に良いバトンを渡すことができたとしたら本望である。
The renovation project of a non-reconstructable house. In order to keep the excess building-to-land ratio within the legal limit, the south side of the house, where the ground had subsided, was reduced, the east and west sheds were removed, and the remaining north side building was structurally sounded. Then, we added a half-moon shaped “margin” that expands the line connecting the “house” on the north side and the “garden” on the south side. The “margin” is an extension of less than 10㎡ that does not require a confirmation application, has only 1.2m wide at maximum, and does not have a specific function. While connecting both sides of the building, it has been transformed into a dynamic architecture that continues from the windows to the outside and to the surroundings, creating an environment that affirms all sceneries.
家と庭と代 / House or Garden and Margin
Date : 2021.4
Type : House
Location : Kamakura, Kanagawa
Floor : 75.50㎡
Consultant : Ryotaro Sakata Structual Engineers, Studio Onder de Linde
Contractor : Kobotto House, Furuya Garden
Photo : Yasuhiro Nakayama
Press : 新建築住宅特集 2021年11月号